１９７１年３月８日、アリvsフレージャー ファイトマネー250万ドル（９億円） の世紀の一戦は、最終回にダウンを奪ったジョー・フレージャー（米）が勝利し、世界ヘビー級王者の座を護った。だが、敗者モハマッド・アリ（米）は、「負けるのも作戦のうち」。「タイトルはちょっと貸してやっただけさ」とうそぶいた。
しかし、１５ラウンドの間ひたすら前進し続けたフレージャーの方も、しばらく病院生活を余儀なくされるほどのダメージを被っていただけに、アリの言葉もあながちホラともいえない。ちなみにこのホラ吹きは、プロレスラーのゴージャス・ジョージから学んだのだという。
試合から３ヵ月後の７１年６月、兵役拒否で有罪判決が出されていたアリに対し、最高裁は有罪判決を破棄。一転、無罪の逆転判決を言い渡した。長い裁判の戦いに勝利したアリは、「非国民」から「大衆のヒーロー」へと躍り出る。
依然として世界ヘビー級１位にランクされていたアリの再起戦は、７月２６日ヒューストンのアストロドームで、元ＷＢＡ王者ジミー・エリス（米）が相手と決まった。同郷の、元専属スパーリング・パートナーは世界ランキング３位を保っていた。２位にはジョージ・フォアマン（米）がいる。
１位ｖｓ３位の戦いといっても、元練習相手のエリスではかなうはずがない。そんなわけで試合の賭け率は７－２で圧倒的にアリ優勢。試合を盛り上げるために、アリはスパーでダウンしてみせたり、「絶不調宣言」。逆にエリスは、「みんなを驚かせてやる」と強気の発言。
この試合のビジネスに影響があったのか、なかったのかはわからないが、アリのトレーナーはアンジェロ・ダンディであり、ダンディはエリスのマネジャーであった。
「私はアリのトレーナーだが、エリスのマネジャーである。だから、エリスのコーナーに就く」
ダンディはエリスのチーフセコンドを務めることになる。
アリの方は、「次は絶対に負けない」とフレージャーとの再戦を盛んにアピール。王者は、「やっつけた奴らに用事はない」としながらも、「税抜きで５００万ドル（１８億円）出すなら、秋にでもやってやるよ」と欲を見せた。
アストロドームには３万人の観衆が詰めかけた。アリのウェイトは１００キロちょうど。これは過去最高である。一方のエリスは８５．７キロと絞り込んできた。初回、スピードを活かしたエリスの攻撃がいい。過去１４度のＫＯ勝利のうち、８度はファーストラウンドというエリスだ。
しかし、ウェイト差そのまま、左ジャブを同じに繰り出しても、その威力は「３倍違う！」。エリスは徐々に追い込まれていった。最終第１２ラウンドを迎える頃には、ＫＯ以外勝ち目なしという状況。だが、エリスにはもうその力が残っていない。
ラストラウンド。打って出たアリが強烈な右を打ち込むと、エリスはグロッギー。だが、アリは追撃をためらう。ダンディがリングエプロンに上がり、「ストップ、イット！」と叫ぶのと、レフェリー、ジェー・エドソンが大きく両手を広げて試合をストップしたのは同時だった。ＴＫＯタイム１２ラウンド２分１０秒。
試合は、ジムのスパーの延長のようなものと揶揄されたが、５０万ドル（１億８千万円）もの報酬を得たアリは、「エリスは世界最高級のボクサーだった。ただ、俺が強すぎただけた」と相変わらずの言いたい放題。そこへ、マイクを片手にしたフォアマンがリングに登場し、アリに呼びかける。
「お前は何だ！」
アリは敵意丸出しでフォアマンを挑発。しかし、この時はまだフォアマンのことなど眼中にない。フレージャーへの雪辱しか頭になかった。
アリ戦でのダメージから回復したフレージャーは、自分のバンド”ザ・ノックアウト”を率いてヨーロッパへ演奏旅行へ行くなどし、次の試合は決まっていない。フレージャーがリングに帰ってくるのは、翌７２年１月１５日のテリー・ダニエルス（米）戦。
元アメリカンフットボールの花形選手というダニエルスだったが、王者には全く歯が立たず、初回からダウンを喫し、２回をどうにか持ちこたえた挑戦者に拍手が起こる始末。３回に２度倒れたダニエルズは４回、王者の強烈なパンチでロープ外にたたき出されてジ・エンド。
だが、ジョーのファイトマネーは２０万ドル（７２００万円）。アリ戦の２５０万ドル（９億円）とは比較にならないほど低い。この年、日本へやってきたアリがマック・フォスター戦（４月１日）で得たファイトマネーは４０万ドル（１億４千４百万円）。
やはりアリが絡まないと稼げない。７２年は６度もリングに上がったアリ。報酬に恵まれないフレージャーは、ダニエルス戦の後、やはり二線級のロン・スタンダー（米）を軽くＫＯしただけで終わった。アリとのリマッチで大金を稼ごうとするフレージャーは、「軽くひねってやる」気持ちでフォアマンを挑戦者に迎える。 ＝ 続 く ＝
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